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ウム・・・

即売展の後片付けをすまして高円寺駅のエスカレーターをあがりホームへ出て
新宿方向へ五六歩すすんだ時、上りの電車がゆっくりと滑り込んできた。
ホームの下り側からそれをぼんやりと眺めていると、先頭車両の前方に一瞬何かがフワッと跳躍したように見えた。
「ウソだろ」と思った瞬間、ブレーキのものすごい音をたてながら数十メートル進んで電車は止まったのだった。
ほぼ同時に、ホームにいた数人の若者たちが先頭車両のほうへ向かって駆け出していったのだ。
私は暫くの間といってもおそらくは数秒間凍りついたようにこわばって動くことも考えることもできなかったのだが、やがてそちらへ引かれるようにぎこちなく歩きながら、もしかすると助かっているかもしれないなと思い始めていた。
停車した電車の先頭から数メートルほど先のホームから数人の若者がさかんに声をかけながら人を引っ張り上げるところが目に入る。
駆け寄ってみると五十歳前後と思しき地味なスーツすがたの女性だった。
顔面蒼白で目を見開いたまま口もきけない様子で体を硬直させていたが、両方の掌と靴の脱げた片方の足を何かを確かめるようにひらひらと動かしていた。
三途の川を半分くらい渡ったところから、この若者たちのよびかけに呼び戻されて彼女はこちらへ戻ってきたのだろう。
線路へ降りて抱えあげた様子はなかったから、
この高いホームへ引き上げられるためには呼びかけに応える何かが彼女の中で動いたのだ。
安物のバッグをたすきにかけた貧相な学生風のこの若者たちはどうだ。
多少蒼ざめているようにも思えたが、慌てて駆けつけて来た係官と信じれないほどに淡々と話をしているのだった。

帰りの電車の中で、私はその日出かける前に朝日新聞の朝刊で見た赤ん坊を抱いた一人の女性の写真を思い浮かべていた。
愛に自己愛も他者愛もありはしないのだ。
あるのはただ生きようとする一塊のエネルギーであり分かちがたい一塊の意思なのだ。
スゴイ人がいっぱいいるんだな・・・世界には!
by nhsmt | 2009-07-13 18:54
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